とある日の午後、実験をしていると、実験の待ち時間で暇を持て余していた学生のJが話しかけてきた。

J) " Kは、ポスドクの後はどうしたいと思っているの?"

僕) " 独立したいと思っている。別に大学教授でなくてもいいんだけど。今よりももう少し独立性が欲しいと思って。自分の研究の方向性は自分で決めたい"

J) " そうなんだ。以前はコンサルにいたわけじゃん。そういう、企業就職は考えてないんだ?"

僕)" そうだね、企業ではなくアカデミアで生き残りたいかな。でも、結局は論文が出るか出ないかだし、もしあと2、3年やって成果が出なかったら、企業も考えないとは、現実的には思っている"

J) " Kは大丈夫だよ。今やっているプロジェクトはうまくいっているし、絶対に論文になるよ"

僕) " そうだね。あとは、どういう雑誌に載るか。CellとかScienceとは言わないけど、その下くらいを目指さないとね。Jはどうしたいとか、あるの?"

J) " 俺は、教授は無理かな。我慢強さ (Patience)が足りない"

僕) "Patience?"

J) " うん。教授はさ、学生を指導しなければいけないわけじゃん。で、学生を指導するのって、すごく我慢強さが求められると思うのね。俺は、もうすぐにイライラしちゃうわけ、どうしてわからないんだよ、って"

僕) " ああ、そういうことね。自分で研究をするときの我慢強さではなくてね"

J) " うん。その点で言うと、Kは教授になれると思う。我慢強さがあるから。俺に遺伝子組み換えをすごく根気よく教えてくれた。あと、前にローテーションでうちに来た学生のEにもちゃんと教えて、プロジェクトを成功させていた。"

注)ローテーション:入学直後の大学院生が、所属するラボを決める前に、いくつかの候補ラボに「お試しで」所属する仕組み。通常は各ラボ1ヶ月 x 3~4ラボで回り、ラボの雰囲気やボスとの相性を知った上で、最終的にPhD取得のために所属するラボを決める。日本では聞いたことがないが、アメリカでは一般的である。

思いがけない褒め言葉に驚いたが、嬉しかった。Jは口は悪いが(Fワードをしばしば連発する)、正直でまっすぐなやつなので、おそらく媚びへつらいなど一切ない素直な感想だったのだと思う。

正直に言うと、Jの遺伝子組換えの指導の際には、少々イライラしてしまったこともあったのだが、それを出さずに(Zoom越しだったので出にくかったのもあるかも)教えることができたのは、塾講師と家庭教師を学生時代に7年間やっていたり、後輩の部活でコーチをしたり、サークルの後輩に指導したりと、過去の経験が生きていると思う。

研究に疲れた時、決まって頭をもたげるのは、「僕は最終的には教育者になりたい」という夢のことである。研究をすることは、その手段でしかないのではとすら思う。

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