先週の水曜日、初めて、「4ラボ合同セミナー」で自分の研究の発表をした。

この4ラボ合同セミナーは、イェールの中で、「細胞核」という共通の研究対象を主戦場としている4つのラボが、2週間に1度、自分たちの最新の研究成果を発表する場である。細胞核がテーマなので、"Yale Nucleus Club"と呼んでいる。
毎回どこかのラボからポスドクまたは学生が2人、それぞれが質疑応答含めて30〜40分ずつくらいしゃべる。

以前の記事(アメリカのラボ間の垣根の低さ)にも書いたが、こうした非公式な発表の場で、まだ論文にはおろか学会にすら発表したことがないような最新の成果を見せ合う場がそこら中にあるところ、そしてラボのボスではなく実験をしている学生やポスドク本人が発表するところが、アメリカの一流大学の魅力ではないかと常々思っている。
(筆者は学生時代は東京大学にいたが、非公式なセミナーが開かれても、たいていは既にどこかで発表されているものを、ラボのボスが発表するという形式がほとんどだった)

さて、発表そのものは、自分で言うのもなんだが、非常にうまくいった。
発表スライドはボスと念入りに詰めたので(ボスは相変わらずストーリー展開を作るのがうまい)、かなり洗練できていた。
しゃべる方も、まあネイティブみたいにスラスラ話すのは無理だが、変な言い間違いや自分がやりがちな余計な一言がなかったのでよかっただろう。


最もよかったのは、その場にいた他ラボのボスたちが、「これは面白い」と食いついて来てくれたことだった。

今回発表した研究は、実はこの1ヶ月半で急に出て来た結果だった(以前の記事「2020年はいい1年だったと思う - 時系列的振り返り編」の11月ごろ参照)。

今、自分はボスが主な研究対象としている遺伝子Aを解析している。そしてそのうちに、Aをなくすと、別の遺伝子Bが大きな影響を受けることが偶然分かり、今回はそれを発表した。

遺伝子 Bについては、自分もボスも全くといっていいほど知見と経験値がない。
一方、"Nucleus Club"の他のボスたちは、遺伝子Bのエキスパートである。

さらに今回の発表では、僕らのラボの隣の隣のスペースにラボを構えるもう一人のボス、Vさんにも来てもらった。VさんはNucleus Clubのメンバーではないのだが、遺伝子Bの筋肉における機能を解析していて、僕やボスよりはずっと知見がある。

ということで、Nucleus clubのボス3人 + Vさんという遺伝子Bのエキスパート4人を相手に(もちろん他のポスドクや学生もいるが)、よそ者の我々が偶然見つけてしまった「AをなくすとBがダメになる」という話をしたわけである。

発表の後の質疑応答で、最初に食いついて来たのは、ボスたちの一人のSさんだった。Sさんは満面の笑みで「面白い、面白い」といいながら、3つほど質問して来た。彼のあの笑顔はなかなか忘れられない。

Vさんからは、「私たちエキスパートを相手に、よく堂々としゃべったわね。あなたは勇敢だわ」と今まで受けたことがない奇妙な賛辞をもらった。僕は「たぶん無知だからこそ、だと思います」と返した。

あまり知見のない分野や研究対象に入って行くとき、いつも問題になるのは、知見がないゆえに「それって研究して面白いのか」「重要な論点に答えているのか」ということである。

なので、今回の発表で、既に遺伝子Bのことを知り尽くしいる人たちから、「面白い」と言ってもらえたことは、大きな力になる。


今のラボに入って1年半、Nucleus Clubでは今まで発表したことがなく、ずっと他人の発表を聞いて質問しているだけだった。特に自己紹介の場もないので、周囲からは「あいつは誰なんだ」と思われていたかもしれない。

しかし今回ようやく、彼らが面白いと思ってくれる結果を名刺がわりに、自己紹介ができた。こちらの研究コミュニティに、ようやく入れた気がしたのもまた、今回の成果である。

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