昨日、うちのデパートメント(日本の大学の学部のようなもの)の全体集会があり、そこで初めて自分のラボ以外の人向けに発表をした。

全体集会は、例年は1泊2日の泊まり込みでやるのだが、今年はそれは無理なので、例のごとくZoom開催である。

去年参加したときに、「来年はここで発表したい」と思っていた場所だった。しかしコロナの影響で研究計画は遅れに遅れ、「今年は厳しいかな」と思っていたところで、ボスから「3分の短いトークならいいんじゃない?」と打診を受け、思い切って発表をすることにした。

いわゆるFlash Talkと呼ばれるもので、普通は学会で自分の本発表の宣伝を目的として行われる。3分という短い時間に、自分の研究の要点と魅力を伝え、「詳しいことは明日の〜で話すから来てね!」という感じである。
ただ今回は本発表は存在せず、Flash talkそのものが本発表であり、そこで「ああ、こいつ面白いことをやっているな」と思わせるのが眼目となる。


うちのデパートメントは生物学をやっているラボが集まっているのだが、その研究対象は多岐にわたる。動物の発生(受精卵から一つの体が出来上がる過程)のラボ、植物の体内時計のラボ、脳の視覚神経の仕組みのラボ、腸内細菌のラボ、細胞内の情報伝達をシミュレーションするラボ、ウイルス研究のラボ、人工遺伝子のラボ、、、およそ、「フィールド(野外)生物学」と「博物学」以外の生物学はほぼ全て網羅しているのではないかと言う多様さである。

この多様性のため、発表内容には大変気を遣う。学会であれば聴衆はたいてい同じような研究をしている人が集まっているので、教科書的な知識はわざわざ触れなくても分かってもらえるよねと、説明を端折れるが、ここではそうは行かない。
いくらネイチャー級の仕事をしていて、見る人が見れば分かるきらびやかなデータでも、前提知識が共有されていなければ「何だかすごそうだね」という感想で終わってしまうだろう(実際そういう発表は残念ながらある)。

僕はというと、ボスから打診されたのが2週間ちょっと前、そこから大急ぎで発表要旨を書いて登録、無事に採用通知が来たのが10日前で、そこから2日ほどでドラフト版を書いてボスに見せ、大幅な修正を受けて再度作り直し、完成したスライドを主催者側に送ったのが3日前、そして昨日発表、と大変な慌ただしさだった。

その過程では、ボスのすごさを思い知った。「ああ、この人はこのプレゼン力でここまで来たんだな」と思わされた。
僕が最初作ったスライドも、上述のような多様な聴衆を意識して、できるだけ基礎から丁寧に示したつもりだった。しかし中盤に入ると、細かな実験系の説明が増え、さらに全体のストーリーを意識した結果、
複数のデータを重ねて示すこととなり、最終的には「ちょっと聴衆レベルを落とした学会発表」という体になった。
それを受けて、ボスが提案したスライド構成は、息を飲むほど美しく、分かりやすかった。同じことを言おうとしているのに、こうも違うかと。

以前にコンサルでのプロジェクトで、チーム内で「次のクライアントミーティングに持っていく資料」の構成を議論していたときのことを思い出した。プロジェクトは炎上しており、さらにマネージャーは私用で1週間不在、若手コンサルタントだけでは全く収拾がつかなくなっていた。そんなとき、ディレクター(取締役に相当)が応急処置としてマネージャーの代わりをすることになったのだが、そのときにそのディレクターが示したスライドの構成が、チーム全員が息を飲むほど美しかった。どのスライドもシンプルを極めて、かつストーリー展開は上げ・下げ・誘導・フラグそしてフラグの回収と、説得力に満ちていた。ディレクターは普段はお客さんとのミーティングにだけ顔を出してちょっといいことを言うだけで、実働はほとんどしないのだが、いざ現場に下りて来てその手腕を発揮すると、その思考力とプレゼン作成力は圧倒的だった。

話が長くなったが、今はビジネスではなくサイエンスにいるとはいえ、やはり組織を引っ張り、現場から離れた代わりに「アイディア」と「アドバイス」と「外部への提案」で飯を食っている人のプレゼン力の高さはどこに行っても一緒だと思った。

さて、そうしたボスの全面的なバックアップもあり、最終的にできたスライドは自分で言うのも何だが(半分は自力ではないが)完成度の高いものだった。
あとは、3分間の英語を噛まずに淀みなく話すだけであり、幸いZoomゆえカンペを横に示しながら発表できるので、それはそれほど苦ではなかった(とはいえ聴衆は100人以上いるので緊張はしたが)。

発表を終えると、ラボのSlackでラボメンバーから絶賛の嵐だった。もちろん、アカデミー賞の受賞スピーチよろしく、絶賛以外の選択肢はないのだが、それでも嬉しかった。
一番嬉しかった賛辞は、「あなたがその研究を楽しんでいることが伝わってきた」というものだった。

自力では到底至らなかった最終形であり、悪い見方をすれば「ほろ苦いデビュー戦となりました」ということなのだろうが、ボスの力、アイディアで飯を食う人の力を間近で体感できたのは自分の大きな成長機会であり、自分の名誉というちっぽけなものを除けば得るものしかなかったと言っていいと思う。

一息ついて、次は来月の「4ラボ合同セミナー」での発表である。そっちはそっちで近い分野の人たちとのガチンコ勝負なので、大変である。

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